ケアレスミスが招いた引っ越しの大惨事

概要

夫婦の長年の夢であった新築のマイホームへ引っ越す時ほど、こころがウキウキ躍る日はありません。お天気予測カレンダーで大安吉日と重なる晴天の休日を慎重に選んで転居の日を決定し、引っ越し業者も早めに手配しました。1ヵ月前から荷造りをスタートさせて、準備万端迎えたはずの当日ですが、思わぬ落とし穴に嵌まることもあるものです。小さなケアレスミスも積もれば、大きな惨事につながる事例をご紹介しましょう。

失敗事例

マイホームを手に入れる前のAさん一家は、地方都市の借家で夫婦と子供2人の家族4人で暮らしていました。長男はすでに社会人として勤めに出ており、妹は学生です。飼い犬の柴犬ハナも大切な家族の一員です。この家族の引っ越しは3つのトラブルの連鎖反応で、思いもよらぬごたごた劇になってしまうのです。荷物を運ぶのは引っ越し業者のトラックと、息子が運転するAさんのワゴンタイプの自家用車です。所要時間1時間半の転居先まで、ほとんどの荷物は業者が運びます。息子と娘は空っぽになった借家を清掃し、掃除道具や貴重品、こまごました残りの荷物を積み込んで新居で合流するという段取りでした。
先に到着したAさん夫婦を待ち受けていたのが、第1のトラブルです。引っ越しの作業では、まず大型家具や家電製品を搬入することから始まります。エアコンやガス給湯器は前もって業者に据えつけてもらっていたので、他の家電製品を搬入すれば第一段階は完了です。ところが、ここで恐ろしいことが起こるのです。長女が使っている大型の電子ピアノが、2階にある彼女の部屋に搬入できないという悲劇でした。
2階の3部屋にはベランダはなく、いずれの部屋も普通の窓しかありません。それならばと、1階の玄関から入れて階段を昇って運べはいいのではないかと思っても、広い階段ではないのでつっかえてしまうのです。電子ピアノを2階の部屋へ収めるには、屋根を剥がす以外に方法がなさそうです。もちろんそんなことができるはずはありません。Aさん夫婦と引っ越し業者は頭を抱えてしまいました。
ピアノのことはひとまず忘れて、運び込まれた荷物を仕分けしたり、家具を拭いたりする作業をすすめる夫婦のもとに、子供たちが合流します。ピアノ事件は長女の知るところとなり、彼女の顔はみるみる赤鬼のように紅潮し、涙混じりの怒りの声で両親をなじりはじめました。
家族にとっての晴れの記念日が、土砂降りに変わった瞬間でした。いったんは収まった険悪なムードですが、荷物の運び込みが終了し引っ越し業者が引き上げたあとの午後7時頃に、第2のトラブルが起こります。コーヒーブレイクのための道具は箱詰めせずに、子供たちが手荷物で持ってきていました。ちょっと一服のために湯を沸かそうとコンロに火をつけるも、カチカチ音が響くだけで炎があがりません。ガスの開栓を依頼するのを忘れていたという失敗です。その日は日曜日だったため、ガス会社が営業していませんでした。ガス給湯器を据え付けたAさん宅は、お風呂も沸かせないということになります。引っ越し作業でクタクタに疲れた家族にとって、泣きたくなるような一撃でした。
子供たちに謝るお母さんの声を聞きながら、長女が一言発します。「ハナはどこにいるの?」飼い犬のハナの姿が見えないのは、誰も連れてきていないからです。がらんどうになった借家に置いてきてしまった犬を迎えに戻らなければなりません。作業で疲れた身体に鞭を入れて起き上がった家族4人は、車を飛ばして60キロメートル離れた、これまでの家に置き去りにされたハナのもとへ走るのでした。お腹はペコペコですが、ハナをほったらかして悠長に食事をするわけにもいきません。そして、第3のトラブルが容赦なくこの家族に襲いかかります。戻った家の中にハナの姿はありませんでした。今度はお父さんが長男を叱りつける番です。なぜ犬を連れてこなかったのかと責められた息子は、トラックに載せたものだと思っていたと応酬します。疲れ果てていた4人ですが、何とか声を張り上げながら、ハナの捜索を始めました。ハナは近くに住んでいた大家さんが保護してくれていたので、無事に新居に連れて行くことができました。めでたしめでたしの結末ですが、体力の消耗や時間のロスを代償にした苦いハッピーエンドになりました。

正しい対応・解説

Aさん一家の失敗は、避けることができたのでしょうか? 答えはイエスです。あらかじめ計画をたてて引っ越しに臨んだAさんですが、細部に見落としがあったことは事実です。新居の購入や引っ越しは、一生に何度も経験する出来事ではありません。従って、事前に気付きにくい盲点もたくさんあるのです。Aさん一家を責めるのはかわいそうですが、教訓を学ぶことはできそうです。住宅を購入する、引っ越しを行うなどの大イベントの際は、インターネットの情報やハウツー本をしっかり調べて、先人のアドバイスに目を通しておきましょう。引っ越しの時にすべきことなどは前中後の時系列でノートに書き出して、見落としがないように確認しておきましょう。家族だからと、以心伝心や口頭で伝えることに頼りすぎてはいけません。役割分担も文字に起こして、全員に渡しておくと安心です。

転ばぬ先の杖!

関連記事

紙書籍

  1. 「〈2訂版〉税理士が見つけた!(本当は怖い)相続の失敗事例64」は2015年に刊行された書籍の増補改…
  2. 空き家は846万戸、総住宅数に占める空き家の割合は13.6%と過去最高を記録し、人口減少であるにもか…
  3. 「税理士が見つけた!(本当は怖い)建設業経理の失敗事例55」は「失敗から学ぶ実務講座シリーズ」の10…
ページ上部へ戻る